第5章 24~
「今すぐ戻った方がいいの?」
「なるべく早く戻るに越した事はない。お前が居なかった分、仕事がストップしてるからな」
「うげ。あんた代わりにやってくれたっていいんじゃん」
「いやだねあんな面倒なもの。…だけど、荷物を纏める時間くらいは許されるだろう」
一旦戻るか?と要の視線が言った。乃芽は首を振る。
「荷物なんて持って来なかった」
私物は全て城に置いたまま飛び出したのだ。
それは逃げた事を幕府の者に知らしめる為なのか、ただ単に持つのが邪魔だったのか、それとも逃げたっていずれは戻るであろう事を予期していたからか。
「もう戻る。要は?」
「俺はこれから仕事だ」
「あそ。土方さん達に急用出来たって言っといて。女中の仕事も、悪いけどお断りしますって」
窓に手をかける。誰にも会わずに出て行くつもりだった。
「自分勝手過ぎないか」
「いいの」
その方が、また城で会った時やりやすいから。
親切をあっさり蹴飛ばす奴だと思ってくれた方が。
乃芽は要に何も言わせないまま窓のサッシに足をかけ、濁った色をする地面に飛び降りた。
2009/06/10