第5章 24~
乃芽はしばらく黙っていた。
まるで悩んでいるかのような間だったが、心の奥底では既に答は定まっていた。
だけどその表面は、「いくらなんでも殺しまではしないんじゃ」とか「いらないものはすぐ斬り捨てる奴らだ」とか「大袈裟に言えば私が驚いて戻ると思ってるんだろう」とか、考えても意味のない事ばかりを考えて。
「約束したとしても守ってくれるかなんてわからないでしょう。私だけ戻らせておいて、戻った途端あの人たちを殺すなんて事は…」
「無いな。そこまで幕府は落ちぶれちゃいない。幕府から言い出したんだぞこの条件」
「…………」
「言っとくが、"戻らなければあいつらを殺す"ってのがただの脅しだと思うなよ。俺には何の情も関係もない連中だ。躊躇いもなく殺すぞ」
「………わかってるよ」
わかってる。
そうでなきゃお庭番衆にはなれないのだから。
情なんて仕事の邪魔になるしかない不要物で、それを生まない為にわたしたちは。
わたしたちは。
間は、さほど無かった。
考えていてもそれこそ意味の無い事だ。乃芽は切羽詰まったような喉元を抑えて、明るく言った。
「戻るよ戻る戻ります。あーあ…せっかく頑張って逃げたのに」
「女装までしてな」
「女装言うな!」
返しながら、そういえば、と乃芽は思う。要が私のこの女着姿を見るのは大分久しぶりだ。
要だけには、自分は本当は女だと告げていた。すごくすごく小さい頃、孤児院で会ったばかりの頃に、一度だけ明かしたのだ。
絶対他の人には言っちゃ駄目だよ、と約束してそれきり。他言されぬまま過ごして、もうそんな約束も事実も忘れててしまっただろうと思っていたが。
「…覚えてたんだ」
「ん?ああ…今思い出した」
「あっそ」
ぎし、と音を立てて乃芽は立ち上がった。
時計を見るとそれほど時間は経っていなくて、まだこんな時間なんだ、とどこかでがっかりする。
こんな話、一日の終わりに聞けたら良かったのに。土方さんとこに戻ったら、上手く表情を繕う自信がない。
ましてや万事屋なんて。
尚更。