第5章 24~
「言っておくけど、私は戻るつもりなんてないから」
「…そうかよ」
気持ちだけは固まっている。気持ちしか固まらなかった。
感情は固まらないまま、要の険しい表情を見て揺れる。
「要が嫌いなわけじゃない。出来るなら一緒にコンビ組んでたかったけど。…要はおかしく思わないの?今の政府を」
「おかしいかおかしくないかは問題じゃない」
吐き捨てるように彼は言った。
その口調があまりにも冷たくて、乃芽は黙る。
それきりまた静寂が落ちて、外から聞こえる音だけがガラス越しに薄く聞こえるのみになった。
しかし、今度の静寂を破ったのは、彼。
「…本当に戻る気はないのか」
重たい口調だった。
それを訝しく思いながらも乃芽は頷く。
「答えは一つでも方法は一つじゃない。この道は違う」
きっぱりと言い切った彼女に、要は苦い顔をした。
滅多に見ない表情だ。何かあるのだろうかと心の奥に疑問がひとつ。
その疑問はすぐに、要の口から語られた。
「…お前がその気なら、俺は嫌な仕事をしなきゃならなくなる」
「何」
「今ならまだ引き返せると言っても頑として曲げないだろうな、お前は」
「だから何」