第5章 24~
場に落ちた沈黙。重たいような軽いような中途半端な間。
それを破ったのは乃芽だった。
「言いたいのはそれだけ?こんな事してる暇があるなら探し人でも探したら?」
冷めきった気持ちをほぐすように言う。
要にはずっと探している一人の人間がいた。捨てられているかのように置いていかれた彼を拾い、孤児院まで届けてくれた命の恩人だ。
記憶しているのは、冷たさと、その恩人の手の温かさだけ。
一度会って礼だけでも言いたいと、孤児院時代から乃芽にもらしていた。
「話を逸らすな」
「逸らしてないよ。何かいい情報あった?」
「いや…お庭番衆にもなれば少しは俺も有名になるし、あっちから名乗り出て来ないかとも思ったけど。なかなか」
「そう」
乃芽は目元を和ませる。
彼は素直だ。天人とのハーフであるという事実だけで蔑まれたりもし、歪んだ人格になっても可笑しくなかったというのに、真っ直ぐに育ってくれた。
ただ一度命を救ってくれた恩人の為にここまで時間をかけながら、尚も諦めようとしない。
純粋にただお礼を言う為だけに知らない誰かを探している。
しかし、そんな乃芽の気持ちを余所に、要はこちらをキッと睨んだ。
「何笑ってんだよ。気付いてんだろ。俺はあんたを連れ戻しに来たんだ」
「…………」
乃芽は嘆息する。
要は一度言ったら引かない性格だと分かっているが故のため息だった。
簡単に逃亡が上手く行くとは思っていない。
彼は最初の難関だ。
2008/02/17