第4章 20~
夏を予感させる陽射しの中を、ゆっくりと歩いていく。
着ているのは女ものの着物。動きやすくないとどうにも落ち着かず裾をたくしあげていて、今にも「はしたない」と言われそうな格好。
通行人の好奇な視線が突き刺さるが、乃芽は一向に気に留めなかった。
反応するだけ損だ。こんなものは。
真選組屯所は、万事屋から絶妙な距離にあった。
歩いて行くと少し遠く、かといって乗り物を使うとまた勿体無いような。
歩くのは別に苦ではないので気ままに乃芽は歩いていた。
思えば、ゆっくり町並みを歩くなんて久しぶりだ。左右に並ぶ店や家を眺めながら屯所への距離を縮める。
と。
店の店頭にならぶ品物に目をとられよそ見をしていた乃芽は、ふと誰かにぶつかった。
「ごっごめんなさ……あ」
「何だその"あ"って」
常に瞳孔開いちゃってる同好会会長土方十四郎がこちらを見下ろしていた。
「どうしたんですか?」
「あぁ…朝の散歩がてら迎えに行ってやろうと思ってな」
「うわっすみません!ありがとうございます」
「気にすんな。俺が勝手にやった事だ」
土方さんは目付きは悪いが優しい。それを私は知っている。
彼は煙草を吸いながら照れを隠すように踵を返し、歩き出した。
「そういや今日はこれから雨だってよ」
「えー傘持って来てない…」
そう言われてみれば空はいつの間にか曇天で、隙間から太陽の光が弱く弱く差し込む状態。
天気予報も見ずに出てきてしまった事を後悔する。
「まあ隊舎に傘くらいあんだろ。降ったら持ってけ」
すう、細く吐き出される煙。それを目で追いながら、ありがとうございます、と乃芽は言った。