第3章 12~19
「よっく聞いてよ。私は、乃芽。確かにあんた達の知るお庭番衆の乃芽。」
「………」
流石に場慣れした二人だ。土方は眉根を寄せ、沖田は瞬いて、何も言わない。
「ずっと黙ってたけど、男装して今まで仕事してたんだ。でも逃げたの。あそこが…あそこの空気が、仕事が、人間が、嫌になったから。でも、まだ死にたくないしやりたい事もある。…私が言いたい事、わかるよね?」
情けないけれど。彼ら二人には、どうか捕まえないでくれ、上司に知らせないでくれと頭を下げるしかない。
彼らは幕府直属の武装警察。乃芽は法を破り逃げ出したお庭番衆。
今ここで土方か沖田が乃芽を殺し首を持ち帰れば、報酬すら貰えるだろう。
従う気はさらさらないが。
「そういや、今朝は城が随分と騒がしかったようだな」
土方が煙草に火を付ける。
「……俺ァ別にアンタをとっ捕まえやしねーよ。城には胸糞悪ィ奴だらけだったが、お前は違った。正直安心してんだ。あそこにいるうち腐ってくんじゃねーかって思ってたからな」
「マヨラー…」
「いや名前で呼べよ」
紫煙を吐く土方は力を抜くかのように壁にもたれかかった。
乃芽は少しだけ申し訳なくなる。期待を裏切ってしまったような罪悪感。
「でも、お城からしてみれば捕まえたいんじゃないですか?乃芽さんの事」
新八の声。
「まーな。お庭番衆の脱走となると、一番厄介なのは情報漏洩だ。指名手配くらいにはなんだろ」
「だけど男としてお庭番衆してたんだろォ?髪型変えて女の格好してりゃそうそうバレねーんじゃねーの。人間なんざそう相手を見てるもんでもねーからな」
「あぁ…多少は誤魔化せるかもな」
誤魔化せる。もう隠さなくてもいいのだと思うとほっとした。
2008/05/23