第3章 12~19
「あれ…旦那ァ。その女…」
「!」
沖田が気付いた。しかし、見てくれが女だからか口を閉ざしてしまった。
乃芽はお庭番衆をしている間は、非番の時はもちろん寝ている時も女を曝した事はない。
そして、彼ら真選組と乃芽は見知った仲でもあった。
時に市中の情勢を聞きに行き、時に曲者始末の手伝いを頼み、プライベートでも時折飲みに行ったりもした。
割と仲はいい。
沖田の視線の先を見た土方も気付く。
怪訝そうに顔をしかめ、乃芽に近付く。
「何。知り合い?」
銀時の声。しかしすぐに黙った。
仕事を捨てたとはいえ、乃芽に緊張が走る。辞めるにも正式な手続きを踏まず、あろう事か逃げ出したのだ。
幕府や城の内情を知る者が仕事を辞める時は、死しかあり得ない。
情報漏洩を防ぐ為に。
「土方さん…お庭番衆の乃芽に似てやせんかい」
「あぁ。そっくりだな…でも女だぞ。あいつァ男だ。女兄弟がいるって話も…」
土方が真剣に考え始めていたたまれなくなる。騙し通せる相手でもない。
彼らとは浅からぬ付き合いをしてきて、お庭番衆時代にはかなり世話になった。彼らの腕は信頼に値するものだったし、裏切りや疑念を感じたこともない、数少ない人たちだ。
これではもう、正直に言うしかないだろう。言って逆に味方につけてしまえ。
乃芽は土方の腕と沖田の服をむんずと掴むと、適当に裏路地に連れ込んだ。
その後を銀時と新八もついて来る。
新八は心配そうだ。もしかしたら乃芽が捕まってしまうのではないかと、懸念する表情。
これ以上万事屋に心配はかけたくなかった。
ここは、私の長年の勘を頼りに、新撰組の彼らを信じるしかない。