第1章 殺し屋タヌキ
ふぅ…ここであの人間達がどこかに行ってしまうのを待とう。
それにしても足痛い、かすったとはいえ血が出てる…舐めときゃなんとかなるかな?
「アハー♪兄さん兄さん、服が落ちてまっせ!!」
「本当だ、あの殺し屋のだな、裸で逃走したのか?」
話声が聞こえる、足音がこっちに近づいてくる、私は息を潜めた。
まぁ、この姿ならたとえ見つかってもスルーされるだろうしね♪ガタッ、ビクッ!笑ってるけど焦点の合ってない目が私を見つめる。
見つかっちゃった…、私は身体を丸めてスルーされるのを待つ。
「兄さーん!なんかいやすぜ♪」
「どうした?殺し屋か?」
今度は同じ顔だけど眉毛の凛々しい目が見つめる。
「犬?にしては何か違うな…?あっ、怪我してるじゃないか」
あ~あ…青シャツに捕まっちゃった~、とりあえず暴れたら離してくれるかな?
「こらこら、怪我してるんだから暴れるんじゃないわんこ君」
わんこじゃねぇよ、タヌキだよっっ!!
何なのこいつ!タヌキ知らないとか、まぁ、知らなくてもいいけどさぁ、とにかくはーなーせーっ!!
バタバタ暴れたら、首の後ろを持たれぶら下げられた、私は猫かよっ!!
青シャツはスーツの上着を脱ぐと暴れる私を上着でくるんで拘束した。
「兄さん、そのわんこ、連れて帰るんすか?」
「見た事あるような、ないような変わったわんこ君だし、怪我してるからな」
こうなったら、おとなしくしておいて隙を見て逃げよう、人間はまさかタヌキが化けるなんて、昔ばなしぐらいにしか思ってないし。
そう思ったらなんか余裕が出てきた、タヌキも知らない人間が私の正体を見破れるわけないしね♪
「ああ、逃げられた、恐らく裸か着替えて逃走したようだ、今からそちらに戻る」
耳にインカムが着いてる…仲間と連絡はつねにとってるって事ね…。
まぁ、こいつがターゲット側の人間なのは間違いない影武者かな…あわよくば本当のボスを殺れるチャンスはあるだろうしね。
上着に包んだ私を胸元に抱え直すと、黄色シャツに声をかける。
「brother、向こうは片付いたそうだ…戻るぞ」
片付いた?まさかね…逆に殺られちゃったとか!?待って…それだったら依頼料ないじゃん!!ただでさえリスク高いのに。
タダ働きはやだよ!?こいつらに連れられて行ったら情況把握出来るかな…。
とにかく今は下手に動かない方が得策だよね。