第106章 恋した記憶、愛した事実《27》
どれくらいの時間がたったのか……
家康は、腕の中にいる陽菜の身体の力が抜けるのを感じた。
「??」
そー…っと陽菜の顔を覗きこむと、家康の腕の中でやっと安心できたのか、不安と恐怖で張りつめていた気持ちが緩み、泣き疲れた陽菜は眠っていた。
「………………」
陽菜を横抱きにして、壁に凭れさせると、家康は褥の用意をして、また陽菜を横抱きにし、褥に寝かせて布団をかけ、陽菜の顔を眺めていた。
泣きすぎて、赤く腫れた陽菜の瞼。
長い睫毛は涙で濡れ、目尻から頬にかけても涙の跡があり、家康はそっと涙の跡をなぞった。
「(…………俺のせいで……)」
自分の記憶がなくなっていなければ、陽菜にこんな辛い思いをさせずにすんだはず。
「(……本来なら今頃、この娘は祝言を挙げて、幸せそうに笑って過ごしていただろうな………)」
一度だけ見たことがある、花が咲いたような綺麗な陽菜の笑顔を思い浮かべ、家康は陽菜の頬を撫でた。
「………………ごめん……」
苦しくて辛い思いをさせてしまっていることに、家康は謝罪の言葉をポツリとこぼす。
家康の謝罪の言葉に、陽菜は眠っているため反応はない。
陽菜の頬をもう一度撫で、頬に手を添えたまま、家康は身体を屈め、陽菜の唇に唇を重ねた。
そして、ゆっくり身体を起こし、頬から手を離して陽菜の手を両手で握る。
恐怖から解放された今、少しでも陽菜が安心して休めるようにと、家康は陽菜の手を朝方まで離さず握っていた………