第106章 恋した記憶、愛した事実《27》
「(……いえ…や……す……)」
記憶がなくなってから、初めて家康に頭を撫でられた陽菜。
頭を撫でる家康の手つきは、とても優しく、記憶がなくなる前と、その手のぬくもりは変わらない。
褒めてくれたとき
甘やかすとき
励ましてくれたとき
心配してくれたとき
不安になったとき
どんなときであっても、安心させてくれた、家康の温かい手。
ゆっくり優しく撫でる家康の手つきに、陽菜の感情はいっぱいいっぱいになり……
「…っ、ぅ…あ……ぃえ、や…」
勢いよく家康に胸に飛び込み、家康の羽織をギュッと掴んで、陽菜は子供みたいに泣き出した。
「うっ、ひっ……く、家康っ!!…家康っ!!」
「………………辛かった…ね……」
泣きじゃくる陽菜の細い身体を、家康は強く抱きしめる。
「あっ、くっ…うっ!…こ、こわっ…っ、怖かったっ……!!」
「………うん…」
「…っく……来てっ…くれないっ、かとっ…!!」
「……………ごめん…」
「…うっ、ひくっ…でもっ!…来てっ、くれっ…あっ、ありっ!……がっ……とっ…!」
「…………うん…」
陽菜が言葉を紡ぐ度に、家康は陽菜の身体をギュッとキツく抱きしめる。
隙間はほぼなく、ピッタリと引っ付き、家康のぬくもりを感じた陽菜。
「…ひっ、く……っあ、…ぃえやっ…!…ぁ、っ…あ、ぅ、あ…ああぁぁ…!!!」
家康の腕の中で、安心を求めるように陽菜は泣きじゃくり、
家康も陽菜のことを離さないように、きつく身体を抱きしめていた…
そんな二人に、秀吉たちは、気づかれないように静かに部屋を退室した。