第106章 恋した記憶、愛した事実《27》
「っ…」
「…あっ!?ち、違っ!これは……っ」
陽菜に手を振り払われた瞬間、家康の表情はさらに苦痛なものになり、家康のその表情を見て、陽菜は自分のしてしまった行動にハッとする。
先ほどまで、鬼原たちに襲われていた恐怖で、大好きな人の手さえも、鬼原たちの手と重なってしまい、拒絶反応が起きてしまった……
だが、どういう理由であれ、家康の手を振り払った事実は消えることはなく、陽菜自身が自分のした行動に、ショックを受け、動揺した。
「っ…ごめんなさい…ごめんなさ……っく…ごめん、なさ……っ…ぅ、っく……」
誤解を解こうにも、動揺した陽菜は、口を開けば謝罪の言葉しか出てこず、ただただ、家康に謝罪していた……
先ほど以上に、自分の身体をギュッと抱きしめ、顔を俯け、瞳からポタポタと涙が落ち、畳を濡らしていく。
その様子に、家康だけでなく、秀吉と三成、女中も辛そうな表情になる。
陽菜の泣き声が部屋に響くなか、家康は目を閉じて、自分の手を強く握りしめ、軽く息を吐くと、目を開けて握っていた手の力を抜く。
そしてもう一度、俯いている陽菜の頭にゆっくりと自分の手を伸ばし、優しく陽菜の頭を撫でる。
「っっ!!!」
頭を撫でられ、ビクリと陽菜の肩が震え、勢いよく頭を挙げると、家康と目が合った。
「……………」
不安と心配が入り乱れた表情の家康。
家康は何も言わずに、ただただ陽菜の頭を撫でる。