第106章 恋した記憶、愛した事実《27》
ダダダダダダダ…………
家康は陽菜の部屋へと向かうために、ひたすら廊下を走り、最後の角を曲がると、陽菜の部屋の前で、三成が閉じられた陽菜の部屋の襖を不安そうに見ていた。
「三成」
三成の姿を見て、家康は足の速さを緩めていき、三成に声をかける。
家康からの声に、三成はすぐに家康の方へと顔を向けると、家康の方へ近づく。
「………家康様…彼らは……」
「捕縛して、牢に入った。それより秀吉さんは?それに、あの娘は?」
「秀吉様と陽菜様付きの女中が、陽菜様を宥めていますが、陽菜様が泣きじゃくっていて、あまり耳には届いていないかと………」
「………そう…」
陽菜の部屋に着くまでの短い時間で、家康と三成は簡潔に状況を言い合うと、二人は陽菜の部屋の前で、ピタリと足を止める。
陽菜の部屋の襖を開けようと、家康が手をかけるが……
「…ひっく……ぅ……あっ…っぐ……」
部屋の中から、陽菜の泣き声が家康の耳に届き、家康は襖を開けるのを躊躇して、襖から手を離す。
「(……家康様…)」
家康のその様子に、なんと声をかけていいのか三成もわからず、三成も辛そうに顔を俯け、二人は陽菜の部屋の前で立ち尽くす。
「……っく、ぅ…ぃぇ、や…っく…いえや……っく…ぁ……」
「……っ」
だが、泣きながら家康の名前を呼ぶ陽菜の声に、家康は戸惑いながらも、襖にゆっくり手をかけ、静かに襖を横に動かした。