第106章 恋した記憶、愛した事実《27》
「………え……?」
「上手く言い訳を思い付いたようだが、領民たちが言っていたぞ?今年は例年に比べて雨の量が少なく、米はそこまで豊作ではなかったから、自分たちの食べる分まで、無理矢理奪われていったとな。」
「……あ…」
「それに、俺の部下がお前の屋敷に残っていた部下を問いただしたら、何もかも吐いてくれたそうだ。そいつも捕らえて、人質にされていた娘たちも解放させてもらった。今ごろ無事に家族のもとに戻っているだろう。お前の悪事は暴かせてもらったぞ。」
「光秀、ご苦労だったな。この件で貴様は終わりだ。だが、その前に……貴様、なぜ陽菜に手を出した」
陽菜の名前に家康がピクリと反応し、刀を握っている手に力が入り、ギリギリで止まっていた刀を、ピタリと鬼原の首に当てる。そして、一層眼光を鋭くして、鬼原を睨み付ける。
「……ぁ…あ…っ……」
首筋にひやりとした刀の感覚、頬は鉄扇でペチペチと叩かれ、家康と信長に間近で睨まれている状況に、自分の行動と発言次第では、すぐに殺されるかもしれない恐怖に鬼原は震え、言葉を発することも出来ない。
「ほぉ…答えぬか。」
「……まぁ、くだらない理由でしょうね。『他人のもの』に手を出すことに快感を感じるみたいですから、家康の許嫁であり、織田ゆかりの姫である陽菜を、己の欲望のままに、ただただ抱きたかっただけでしょう。それに、予定していた日取りで家康と陽菜が祝言を挙げていませんし、もし婚姻が破綻していれば陽菜を自分のものにし、信長様との繋がりを強固なものにして、自分の地位をあげようとしたのでは?」
「…ぁ……いや…そ、の…」
図星だったのか、鬼原の顔から冷や汗がドッと出始める。
そして光秀の言葉に、家康、信長、政宗の眼光が、一気に鋭くなる。
「………ほぉ……俺も舐められたものだな…」