第106章 恋した記憶、愛した事実《27》
「信長様、見つけました。」
「そうか、ご苦労。……貴様、これはどういうつもりだ」
光秀が持っている書を、信長は顎で指し、鬼原は言われるまま、光秀が持っている書を見る。
「…そ、それはっ……あ…り、領民っ、からの…ね、年貢の…な、内容を…書き記した、もので……」
「ほぉ…?……かなり事細かく記されているようだ…」
「は、はいっ!!…そ、そこからっ!信長様に、け、献上しますのでっ!ふ、不備があっては…い、いけませんしっ!!」
「なるほど……では……これを見ていただこうか。」
そう言って光秀は、先ほど九兵衛から渡された書状を懐から取り出し、鬼原の眼前に広げる。
「………そ、それ…は……?」
「領民全員から、お前にどれだけの作物を納めたかを、事細かに記載しているものだ。もちろん、領民たちの嫁や娘が拐われてからのな。」
「……え…?」
「お前は若い娘たちを人質にとったことで、領民たちはお前に従うと踏んでいたようだが、領民たちはいつか必ず、自分の大事な嫁や娘をお前から取り返すために、こうして証拠を残してくれていたぞ?」
「その書に書かれている内容とお前の帳簿、そして秀吉が細かく記録している帳簿を照らしあわせれば、決定的な証拠になるな。」
「その通りです、信長様。」
「…あ…いや……その……」
光秀の口から語られる事実に、鬼原は顔を青くし、眼を泳がせながら、口をモゴモゴさせる。
「今、必死に言い訳を考えても無駄だ。ここには、領民たちが納めた分だけではなく、お前が倉に隠しもっていた作物の量もしっかり書いてある。見たところ、かなりの量を隠しもっているが……」
「い、いえっ!!そ、それはっ!……あっ、ほ、豊作だったので!ご、後日、信長様に献上しようと、お、置いていたものでっ…!!」
「……ほぉ、豊作…ね…」
光秀の真相を暴く言葉に、鬼原が言い訳の言葉を矢継ぎ早に被せるが、それを聞いた光秀の口角が少し上がる。
「残念ながら、それはあり得ない。」