第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
小さく息をこぼし、戸棚を静かに閉じる。
「(……一体どこに………)」
この部屋に、他に人が隠れるような場所はない。あるとすれば、部屋の隅に置かれている、なかなかの大きさの風呂敷包みぐらいだった……。
「(……この中はないだろな…)」
この大きさだと、たぶん彼女を隠すのは無理だろうけど、そこそこ大きいし、何といっても怪しすぎる……。猫を探すふりをしながら、さりげなく風呂敷包みに近づき、そっと手を触れる。
「(……これは……書物…?)」
ペタペタと何ヵ所かに触れてると、人の身体の柔らかさはなく、書物のようなものや、おそらく替えの着物だろう布地を風呂敷越しに触れた。
替えの着物はまぁわかるが、たかだか隣国への用事だけで、こんなに書物を必要とするだろうか…?とも思ったが、どんな用事だったかもわからないし、まず鬼原の用事なんて興味ない。
彼女の姿を確認できなかったのを残念に思い、風呂敷包みから手を離し立ち上がって、なぜか天井を見ている光秀さんを不思議に思いながらも、光秀さんに近づく。
「………光秀さん」
「あぁ……どうだ?」
光秀さんの問いに、俺は首を横に振ると、光秀さんは「そうか……」と小声でこぼすと、鬼原の方へと振り返る。
「……どうやら、鬼原殿の部屋に逃げ込んではないようですね…お騒がせしました。」
「いやいや!そうでしたか!これで安心して眠れます!!」
「ゆっくりお休みください。あぁ、そうだ。念のため、鬼原殿のお付きの方たちの部屋も探させていただきたい。そちらに逃げ込んでいるかもしれませんからね…」
「……!」
光秀さんの言葉に、鬼原の表情が少し強張る。
もちろんそれを、俺と光秀さんが見逃すわけもなく………
「おや、鬼原殿、どうされましたか?」
「……いえ、何でもありません…お二人の気が済むまで、お探しくださって構いませんので…」
「そうですか。ありがとうございます。ではお休みのところ失礼しました。」
そう言った光秀さんと共に、鬼原の部屋を出て、襖を後ろ手で閉めた。