第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
「いや…来ていませんが……」
「そうですか。ですが念のために、部屋の中を探させてもらえますか。鬼原殿の安眠を邪魔させないためにも………よろしいですか。」
口元は笑っているけど、目は鋭く、有無を言わさない言い方の光秀さん。
鬼原は少しだけ返事に間をあけたが、了承すると俺と光秀さんを部屋に入れた。
部屋の中は、中央に褥がひとつ綺麗に敷かれており、部屋の隅に大きめの風呂敷包みがあるぐらいだった……。
「(…………いない……)」
ざっと部屋の中を見回すが、元々この部屋は客室用だから、特に家具などは置いていないため、人を隠せるような場所はなく、せいぜい床の間の横にある、床上の戸棚ぐらいだが………
「(……ぎりぎり入るか………?)」
少し大きめに作られている戸棚。
子供なら横になれば余裕で入るぐらいの大きさだが、大人だと無理だろう。だけど小柄な彼女は、ぎりぎり入りそうだ……
一応、猫探しという理由で来ているため、ここを開けることは疑われない。
戸棚の引手に手をかけ、戸棚を開ける。
「(………………いないか……)」
戸棚の中は、全く物も置かれていない空っぽだった……