第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
広間に入ってきた家臣は、どうやら秀吉さんの家臣。
顔は青ざめて、全身をカタカタと震わせて跪く。
その様子で、何かがあったことは瞬時に全員が理解した。
「何があった?」
信長様の低い声が凄みを帯び、家臣はビクリと肩を震わせ、握っていた拳をさらにきつく握りしめると、悲痛な面持ちで口を開く。
「大変申し訳ございません!!陽菜様が……陽菜様がどこにもいません!!!」
…………え……?
「何だとっ!!!?」
家臣の謝罪の声に、秀吉さんは勢いよく立ち上がり、急いで家臣の元へ近づく。
「おいっ!!一体どういうことだっ!!?」
「申し訳ございませんっ!秀吉様に言われ、陽菜様の部屋に向かったのですが、もぬけの殻でっ…!家臣や女中たちとも捜したのですが、どこにも陽菜様の姿が見えずっ……誠に申し訳ございませんっ!!」
勢いよく頭を下げ、額が畳に擦れるぐらい謝罪の声をあげる秀吉さんの家臣。
一気に静けさが広間に渡り、誰も口を開かない。
だけど、すぐに信長様が口を開いた。
「頭を上げろ。今は謝罪の言葉よりも、陽菜を捜しだすことが先だ。」
「信長様……」
「とりあえず、陽菜の部屋へ向かうぞ。話は向かいながら聞く。行くぞ。」
「「「「「はっ!!」」」」」
俺たちは広間を出、急いであの娘の部屋へと向かった。