第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
「鬼原、そろそろ終いだ。俺たちはまだ仕事がある。」
四半刻ぐらいが経ち、信長様が面倒になったのか、鬼原に切り上げるように命じる。
「おや…そうでしたか。…仕事があるとは存じず、長々と申し訳ありません。いやはや、安土のお酒は美味しかったので、ついつい飲みすぎてしまいました。」
「構わん。陽菜にも会えて満足しただろう。」
「えぇ!!それはもちろん!とてもお美しゅうございました。徳川殿が羨ましい!早く陽菜様の体調が整われて婚姻の儀を結べると良いですな!」
「…………そうですね…」
恋仲だったのはわかっていたけど、まさか祝言を挙げる予定だったとは、鬼原に言われるまで知らなかったけど………
適当に相槌を打ってやり過ごす。
「……では、私は退室させていただきます。長々と失礼いたしました。」
そう言って鬼原はゆっくり立ちあがり、フラフラした足取りで、従者と共に広間から出ていった。
「…………ふん。やっと終わったか…。全く益にならん時を過ごした。」
面倒そうに閉じた襖を見たあと、脇息にもたれかかった信長様。
「お疲れ様でした。奴から陽菜を守るためですから仕方ありません。」
「わかっておる。奴が城から出るまで見張っておけ。帰り次第、陽菜を城に戻せ。」
「承知しました。」
秀吉さんに諭され、信長様は、お茶を一気に流し込んだ。
「それと光秀。例の件、ここで報告しろ。」
「……はっ。」
「(………例の件?)」
信長様に呼ばれた光秀さんは、襖の方をチラリと見て、何かに警戒している様子。