第105章 恋した記憶、愛した事実《26》家康side
――――――…………い…えや……す……
「………?」
一瞬、誰かに呼ばれたような気がして、後ろを振り返る。
だけどそこには誰も居らず、閉めきられた広間の襖しかなかった。
そのまま、少しだけ閉めきられた襖を見ていたが、先ほどの声などは聞こえもしない。
「どうした?家康?」
横に座っている政宗さんが、不思議そうに声をかけてくるので、俺は襖から政宗さんへと視線を移す。
「………誰かに呼ばれた気がしたんですけど……気のせいだったみたいです。」
「なんだなんだ?疲れて幻聴でも聞こえたか?」
政宗さんはそう言って笑いのけて、御膳に置いてあるお茶を一口飲む。
「………既にこの状況に疲れてますけどね…。いつ終わるんです……」
「さぁな。まぁ、あいつもかなり酔って出来上がってるし、そろそろ終わるだろうよ。」
顎で鬼原を指し、政宗さんはまたお茶を飲む。俺も不満の息を一つこぼして、ぬるくなったお茶を一口飲んで喉を潤す。
それからも、鬼原一人が酒を飲み、勝手に喋っているのを適当に相手しながら、ただひたすら時が過ぎるのを待っていた。