第104章 恋した記憶、愛した事実《25》
「……よく頑張ったな。」
広間を出て、少ししたところで、秀吉さんにポンっと頭を軽く撫でられる。
「………ううん…信長様が助けてくれたから……でも……家康に………」
その先の言葉は続かず、私は口を閉じて、顔を俯ける。
「…………とにかく陽菜は休んどけ。俺はまだ城に残らないといけないから、俺の御殿までは家臣に送らせる。」
「……うん。ありがとう………」
秀吉さんにお礼を言って、そのまま会話もなく、秀吉さんに部屋まで送ってもらった。
秀吉さんが部屋まで送ってくれたのと同時に、女中さんがお茶を淹れて持ってきてくれ、お茶を飲んで一息つく。
すぐに家臣さんも来るだろうし、いつでも出れるように、すぐ近くに荷物を纏めた風呂敷も置いて、お茶を飲みながら家臣さんが迎えに来てくれるのを待つことに………
「陽菜様」
お茶を飲み終えて、少し気も落ち着いた頃、襖の向こうから声がかかる。
「あ、はい!すぐにっ…」
「信長様からのお達しで、一度広間に戻るようにとのことですっ!」
言葉を遮りながら、矢継ぎ早に用件だけを告げる声に、立ち上がろうとしていた動きが思わず止まる。
「え?でも……」
「申し訳ございません。急ぎと仰っていましたので、お早めにお願い致します。では、私はこれで……」
また矢継ぎ早に告げると、すぐに歩き出す足音が聞こえ、その音はどんどん遠ざかっていく。