第104章 恋した記憶、愛した事実《25》
少しの間、家康の方を見ていたけど、家康はモクモクと御膳に乗った食事を食べていて、私の方を向くことはなかった。
私も食事を摂ろうとお箸を伸ばすけど、気疲れで食欲が落ち、お箸を御膳の上におろす。
「……信長様、すみません…。ちょっと食欲が無くて………」
隣に座っている信長様に、小声で呼び掛ける。
「そうか。ならば部屋に戻っておけ。秀吉。」
「はっ」
信長様が秀吉さんを呼ぶと、すぐに秀吉さんは立ちあがって上座へとやってくる。
「陽菜を部屋まで送り届けろ。」
「承知しました。陽菜、部屋まで送る。ほら。」
中腰になった秀吉さんが手を差し出してくれて、その手に自分の手を乗せて立ち上がる。
そのまま秀吉さんが手を引いてくれて、大名の方のところまで一緒に行く。
「悪いが、陽菜の体調が優れないので、ここで陽菜は失礼させてもらう。」
「……申し訳ありません…」
秀吉さんが理由を言ってくれたあとに、私も頭を下げる。
「いやはや!病み上がりでしたし仕方ありません!ゆっくりお休みください!今日はお会いできて嬉しかったですぞ!」
「……はぃ、ありがとうございます…では、失礼します……」
もう一度、ペコリと頭を下げて、私と秀吉さんは広間から出ていった。