第104章 恋した記憶、愛した事実《25》
「あちらの美しい女性は?」
男性が顔を上げると、すぐに私に気づいて、光秀さんたちに私が誰なのかを尋ねる。
「……織田家ゆかりの姫君の陽菜だ。」
「おぉ!!あの方が陽菜様ですか!?なんとも美しいお方ですね。陽菜様、初めまして。わたくしは鬼原と申します。」
「っ!!は、初めまして……陽菜です…」
口調は丁寧だけど、ニヤニヤと笑いながら、上から下までねっとりと舐めるように見られ、ゾワ……と寒気が走る。
いつもは、信長様たちに迷惑がかからないようにと、しっかり挨拶するように心がけているけど……
この人は、なんだか気味が悪くて……竹箒をギュッと握って、震える声でなんとか挨拶をした。
「……とりあえず広間で待っていただこう。三成、頼んだ。」
「承知致しました。鬼原殿、どうぞこちらへ……」
「いやはや!申し訳ありませんな。では陽菜様……失礼いたします。」
「……は、はい……」
ペコリと頭を下げて、三成くんが広間まで案内をする。
姿が見えなくなると、やっと息を吐くことが出来た。
「陽菜」
「あ、秀吉さん……ごめんなさい…きちんと挨拶出来なくて……」
「いや、気にするな。それより掃除は終わりだ。今すぐ陽菜も天主へ向かうぞ。」
「え?」
「面倒なことが起こりそうだ……」
「……光秀さん…?」
秀吉さんと光秀さんも、険しい顔をして、鬼原という大名が歩いていった方向を見ている。
よくわからないけど、秀吉さんの言う通りに、掃除を中断して、二人と一緒に天主へと向かった。