第104章 恋した記憶、愛した事実《25》
家康の快気祝いと、姉の出産祝いを兼ねたお祝いから一ヶ月……
家康の記憶はまだ戻っておらず、陽菜はというと……
ザッ、ザッ、ザッ………
中庭で掃き掃除をしていた。
一定のリズムで竹箒を動かし、陽菜が掃いたところは、たちまち綺麗になっていく。
「…………………」
とはいっても、呆然と心在らずの状態で一歩も動かず掃き掃除をしているため、綺麗になっているのは陽菜の足元のみで……もっと正確にいうと、足の爪先側だけが綺麗になっているだけである。
すなわち中庭全体でいうと、これっぽっちも綺麗にはなっていなかった。
だが陽菜は、そんなことにも、むしろ自分が一歩も動いていないことにも気づかず、一定のリズムで竹箒を動かして掃き掃除をしている。
「(ん?あれは………)」
その心在らずの陽菜の姿を、少し離れたところ廊下を歩いている光秀が、たまたま見つけた。
一歩も動かず、一定のリズムで、未だに掃き続けている陽菜に、光秀は気配を消して近づく。
普段から危機感をあまり持っていない陽菜だが、今はもっと持っていない。
光秀は陽菜の背後にまわり、ポンポンと肩を叩いた。