第103章 恋した記憶、愛した事実《24》混合目線
《家康side》
「これ、大事に使いますね!」
目元を赤くしているけど、花が咲いたような笑顔を俺に向けてお礼を言ってきた。
その姿が眩しくて……
なかなか見れなかった笑顔を、俺だけに向けてくれたのが、柄にもなく嬉しくて……
心臓がうるさく騒ぎだした。
「……使ってて治らなかったり、足らなくなったら言って。また作るから」
見たいと思っていた笑顔を、直視することが出来ず、思わず顔を逸らし、早口で必要なことを喋る。
「(……自覚した途端に、この笑顔は……正直ズルいだろ……)」
未だにうるさく拍動している心臓。
近くにいるこの娘にまで、聞こえているんじゃないかと思い、早く落ち着けと、ゆっくり静かに呼吸する。
チラリと彼女を見ると、俺があげたものを微笑みながら、大事そうに指で撫でると、袂へと仕舞った。
「本当にありがとうございます。あの、何かお礼しますね!」
「は?お礼にお礼するの?別にいらない。」
「え………でも……」
「俺がいらないって言ってるんだから、用意しなくていい。それに…………」
あんたのその笑顔が、俺にとっては充分すぎるお礼だ………。
そんなことは言わずに、黙る俺に、不思議そうに首を傾げる彼女。
「それに……何ですか?」
「いや…なんでもない……」
話は終わりとばかりに、俺は背中を壁に凭れさせる。
彼女も俺と同じように壁に凭れかけて、静かな時間が訪れた。