第103章 恋した記憶、愛した事実《24》混合目線
時間でいうと、5分…10分ぐらい話して、話が一瞬止まったとき……
「………あの、さ……」
家康が、少し困った感じで声をかけてきた。
「??はい?」
「………………」
返事をするけど、家康からの返事はない。
もしかして、話しているのが疲れてきて、休みたくなったのだろうか……
「あ、えっと………長々と話ちゃいましたねっ!そろそろ御殿に」
「て」
“戻られますか?”と言う前に、家康から遮るように声がかかった。
「………て…?」
「…………手、出して」
「……手…?あっ、はいっ!」
家康に言われて、右手の掌を上にして手を出す。
私が手を出したのを確認すると、家康は壁から背中を離して私に一歩近付き、家康の右手が左袖の袂から何かを取り出すと、左手で私の右手を掴み、取り出したものを私の右手に乗せた。
「…………………あげる…」
そう言って家康の両手が私の手から離れて、掌に乗っていたのは………
白い陶器で所々に花の模様がある、蓋付きの小さな丸い入れ物。
「??あの…これ?」
これが何かわからないし、今の家康から物を貰うことに驚いて、首を傾げる。
「……保湿効果がある軟膏。」
「…………え…」
「この前、火傷の手当てしたときに、あんたの手、荒れてたから。ずっと働きづめで、女中の手伝いもしてたからなんだろうけど、一応信長様ゆかりの姫なんだから、ちゃんとしないとでしょ。あとは………俺に手当てしてくれた礼。」
家康は早口で一気に、しかも最後の言葉はかなり小さい声で喋った。
忙しい家康が私のために作ってくれたことが嬉しくて、入れ物にそっと触れる。
そして……ある日のことを思い出す。