第103章 恋した記憶、愛した事実《24》混合目線
パシッ
身体を引っ張ったと同時に、この娘の顎から信長様の手が離れ、その手がまたあの娘に触れないようにと、俺は信長様の左手首をすぐに掴む。
そして、信長様のことを思いきり睨み付ける。
「………本能的に動いたか……」
そう言って、面白そうに俺を見てくる信長様。
……本能的………?
確かに本能的に動いた。
気付いたら足が勝手に動いていたし……
「(……でも、なんで………)」
靄がかかっているわからない答えと、信長様がこの娘にしようとした行動に苛立ち、俺はずっと信長様を睨み続ける。
信長様も何も言わないけど、すぐに信長様は体勢を戻した。
信長様が体勢を戻すと、信長様の手首とこの娘の身体から手を離し、俺は広間を出た。
―――
―――――
「(………そうか……。俺は………)」
左手をだらりと下ろし、なんであんな行動をとったのか、冷静になるといろいろ気付く。
冷たくキツくあしらっても、へこたれないで……
手当ての手つきは優しくて……
掃除をするのも一生懸命で……
実は表情豊かで……
だけど俺の知らない笑顔を、他の奴らに見せたり……
光秀さんに気安く触られたり……
政宗さんと一緒に料理をしたりするのも……
信長様に口づけされそうになって、イライラするのも………
「(………俺が……あの娘のことを……)」
俯けていた顔をゆっくり上げ、暗闇に浮かぶ満月を見ながら、靄がかかっていた答えの正体に気付く。
「(…………好きなんだな……)」
目を閉じ、あの娘への想いを心の中で言う。
すると
「…………家康、さん……」
俺を呼ぶ小さな声が聞こえ、目を開け声の方へ顔を向けると…………
思い浮かべていた彼女の姿があった。