第101章 恋した記憶、愛した事実《22》
「……何も話せなかった……」
家康が出ていったあとの襖を呆然と見て、ガクリと項垂れる。
「(……話せるチャンスだったのに……)」
一週間ぶりに、家康と会えたというのに……交わした会話は、火傷とか眩暈とかの診察内容だけ……。
「……せめて、もう怪我は大丈夫なのかぐらいは、聞けば良かった……」
そう思っても、もう本人に聞くことは出来ない。
はぁ……と、ため息をついて、家康に包帯を巻いてもらった手を見る。
「(やっぱり手当てするの、上手だな…。)」
ここ最近は、家康に手当てしてもらうこともなかったから、久しぶりに手当てをするところを見た。
手当てしているときの家康の顔は、真剣で格好良い。
家康と話は出来なかったけど、その姿が見れたから、火傷をしたことは、ちょっと良かったことのような気がする。
「…………あ。そういえば……」
包帯を巻かれた手を見て、火傷の原因となったプリンの存在を思い出す。
味見もしていなければ、無事に出来ているのかどうかでさえ、ちゃんと確認していない。
「政宗も、用がある。って言ってたし、厨に居るよね。でも用ってなんだろ?」
宴の料理のことなら、さっき話したし……世話役の仕事か何かかな…?
まぁ、政宗に会えばわかるかな。と思い、部屋を出て、厨へと向かった。