第100章 恋した記憶、愛した事実《21》家康side
手元を見て、俺の心臓は、バクバクと嫌な音を立てながら拍動している。
「珍しいな。家康が軍議がない日に登城してるなんて。」
「…………光秀さんに用があったんで…そういう政宗さんも、登城してるの珍しいですね…」
「あぁ。こいつに用があったからな。」
「わっ!?」
政宗さんは掴んでいる手を、自分の方に軽く引っ張って、後ろにいたあの娘が、政宗さんの横に並ぶ。
「……用?」
見せつけているかのような政宗さんの態度に、思わず、怪訝な表情になったのも自覚しながら、政宗さんに聞く。
「今度、お前の快気祝いと、香菜の出産祝いを一緒にする。って信長様が言ってたろ。そのときに出す料理をこいつと考えてたんだよ。んで、こいつがちょっと火傷したから、今から手当てすんだよ。」
「火傷?」
その言葉に、俺は怪訝な表情を少し解き、顔を政宗さんからあの娘へと移す。
「あ!大したことじゃっ……!すぐに冷やしたから大丈夫で…っ!政宗!本当に大丈夫だから!」
「跡残ったらどーすんだ?しかも利き手だから、自分じゃしにくいだろ。」
「そ、それはそうだけど、これくらいなら……」
「気にすんな。ほら、行くぞ。家康、またな。」
そう言って、あの娘の手を掴んだまま、引っ張るようにして、政宗さんはあの娘とこちらへ向かって歩きだし、あの娘の部屋の襖に手を触れようとしたとき
パシッ…………
「…え………」
あの娘の、少し驚いたような声が聞こえ
「………」
「…………俺がします。」
気付けば、俺は、そう口にしていた。