第100章 恋した記憶、愛した事実《21》家康side
「(…………なんでわざわざ、女中の手伝いを……?)」
俺の手当てが終わっても、世話役という仕事があるから、女中の手伝いなんてしてる暇はないんじゃ?
広間へ向かいながら、視線は反対側の廊下へと向けていると、廊下の角を曲がったところで、陽菜が後向きで雑巾掛けしているのが見えた。
「(…本当にしてるし……)」
慣れないからか、ゆっくりと移動しながら拭いている。
表情は下を向いてるから見えないが、たぶんだけど、一生懸命しているんだろう。
しばらく、あの娘の様子を見ていると
「……光秀さん?」
あの娘の進んでいる先の方に、光秀さんの姿が。
すぐに雑巾掛けしているあの娘に気付き、静かに少しだけ近寄って立ち止まると、何も気づいていないあの娘は後向きのまま進み……
「………わっ!?……えっ……光秀さん!?」
案の定、光秀さんとぶつかった。
急いで立ち上がって、ぺこぺこと何度も頭を下げて、何か言っている様子。
反対側の廊下にいるから、さっきみたいな大声だと、こちら側まで聞こえるが、普通の話し声だと聞こえない。
まぁ、雰囲気的に謝罪の言葉だろう。
で、光秀さんがニヤニヤ笑い、あの娘は何やら腕を大げさに動かしている。
「(……たぶんだけど、光秀さんがなにか揶揄って、それに対して真に受けてるとか……そんなところだろうな……)」
見ているだけで、どういう状況か、だいたいわかったとき