第99章 恋した記憶、愛した事実《20》家康side
「それで貴様は、『そうだ。』と言われたらどうするつもりだ?」
「え?」
「陽菜と恋仲のように接し、貴様の御殿で暮らすのか?今の貴様にそれが出来るのか?」
「…………それは…」
信長様の言葉に、俺は口をつぐむ。
信長様の言い方で、あの娘と俺は恋仲だったのだと確信は持てたが……
だけど、信長様の言うように、今の俺には恋仲だったという記憶がないから、一緒に居てもどのように接していいかわからない。
あの娘が御殿に帰りたいと思ってても………
「……今の俺には……どうしてあげることも出来ないです………」
思ったことを正直に伝える。
「………ならば、貴様はどうしたい」
「え?」
「それがわかれば、自ずとすることがわかるだろう。話は終いだ。直に軍議も始まる。俺はまだやることがあるから、貴様は先に行け」
「……はい…。失礼します…」
頭を下げて、天主の襖に手を伸ばし、俺は天主を出た。
家康が天主を出ると
「あの様子なら、何かあれば行動を起こすだろうな」
信長は顎に手をあて、ぽつりと呟き、家康が出ていったあとの襖を、ただただ見ていた。