第99章 恋した記憶、愛した事実《20》家康side
畳んだ小袖を持ち、見慣れない箪笥の方に近づき、引き出しを開けようと思ったが……
「(……流石に箪笥を開けるのは、やめた方がいいか……)」
自室に置いてあるとはいえ、この箪笥は俺のものじゃない。
仕舞うだけとはいえ、勝手に開けるのは…………
少し考えた結果、仕方なく、自分の箪笥の中に、その小袖を仕舞うことにした。
小袖を自分の箪笥に仕舞い、箪笥から離れ、今度は鏡台に近づく。
鏡台にはあまり物は乗ってなく、乗っているのは、手の平より小さい白い陶器で円形の容れ物と、同じ大きさぐらいで、蓋に花の飾りがついている容れ物の二つ。
大きさ的に、紅や練り香水だと思う。
引き出しが二段あるが、流石にこちらも開けるわけにはいかないだろう……。
一番情報が詰まっていそうなところだが……。
「(………というか、この持ち主は、俺とこの部屋で過ごしていたってことだよな…)」
ふと、過った考え。
なら、俺の文机などに、持ち主が誰かわかるものがあるかもしれない。
そう思って、自身の文机に近づき、引き出しを開けて、中に入っているものを全部出して、何かないかを探す。