第99章 恋した記憶、愛した事実《20》家康side
そのことを知ったのは、包帯が外れた日。
包帯が外れるまで、信長様の命で安土城にいたから、久しぶりに自分の御殿に戻り、自室の襖を開ければ…………
「…………何、これ……」
自分でもわかるぐらい、今、俺は眉間にかなり皺を寄せている。
そして、ぼそりと言葉をこぼして部屋を見る。
箪笥に鏡台、それに衣桁にかけられている、女物の着物。
見慣れないものがいくつかあって、本当に俺の部屋なのか?と一瞬疑って、部屋に入るのに戸惑った。
だが、部屋には自分が使用している家具が置かれているし、薬の調合に使用する道具、棚には薬関係の小瓶が綺麗に並べられている。
間違いなく、俺の部屋。
ゆっくりと部屋に入って、まずは近くにあった衣桁に近づく。
「……………どうみても、女物だけど……」
衣桁にかかっていたのは、深緑と極彩色の小袖。
大輪の花などが豪華に刺繍されているが、とても上品なものだ。
だが………
全く見覚えがない。
誰のものかわからないかと、何気なしに、その小袖に触れてみる。生地は上質なもので、縫い上がりや刺繍もとても丁寧に縫われている。
「(………なんとなく、あの女に似合いそう……)」
黄色や赤などの小袖をよく着ていたが、こういう上品なものも、似合うような気がして、この小袖を纏った姿を想像したが……
「………っ…何考えて……」
ふと、そんなことを思って想像した自分に驚き、小袖から手を離す。
「………仕舞っとくか……」
衣桁から小袖をとり、皺がいかないように畳む。
誰のものかわからないため、勝手に処分するわけにはいかない。
持ち主がわかるまで、一時的に預かることにした………。