第97章 恋した記憶、愛した事実《18》家康side
「おい!家康っ!!」
「っ!!?」
耳元で秀吉さんが大声で俺を呼ぶ。あまりの声の大きさに、俺はビクリと肩を跳ねあげた。
「ったく……軍議中に呆けて……何、考えてんだ。軍議に集中しろ」
「……すみません…」
全員からの視線を浴び、いたたまれない気持ちになる。
「(……まさか軍議中に、考えるなんて、俺としたことが……)」
あの笑顔が自分以外の他に向けられるかと思ったら……無性に腹立たしいと感じるなんて……
そう思う気持ちを体内から吐き出すように、はぁ……と一つため息を、周りに気づかれないように吐いた。
「では、次に燐国との情勢ですが……」
吐ききった頃に、秀吉さんの進行する声が耳に届き、私情を追い払って、軍議に集中した。
「では、各々取り組むように。今日はこれで終いだ。して家康。」
「なんですか?」
「貴様、軍議中に呆けるなど、随分偉くなったものだな。」
信長様が冷めきった目で俺を睨み付ける。
「(……最悪……かなり怒ってるし…)」
確かに軍議に集中していなかった俺が悪いんだけど……だけど、あの女のことで悩んでいたなど言えば、確実に揶揄われたり、面白がられる。
「家康。まだ怪我が完全に治ってないのか?」
どうするか悩んでいたら、秀吉さんが声をかけてきた。
「怪我はもう完全に治ってます。」
「ほぅ……。それなら、記憶は戻ったのか?」
「いえ……それはまだ……」
光秀さんの問いに、俺は顔を俯ける。
怪我は治ったけど、それと同じように、記憶はこれっぽっちも戻っていない。