第97章 恋した記憶、愛した事実《18》家康side
「そうか…怪我は治ったんだな。ならなんで呆けてたんだ?お前らしくない。」
「……それは…」
秀吉さんの目が、鋭いものになり、俺を捉える。
正直に言ったら、揶揄われる。
だからといって、下手に言っても……
ここは………
「……どうすれば記憶が戻るのか考えてました……」
もっともらしいことを言っとこう。
記憶が無いのを、悩んでいることは本当のことだし……
この答えで納得した秀吉さんは、鋭い目付きを解き、今度は眉尻を下げて、困ったような顔つきになった。
「…あーー……確かにお前も記憶が無いのは辛いよな……。うーん…どうすれば記憶が戻ってくるのか……」
「医者によると、何かのきっかけで戻ると言っていたようですし、普段と変わらない生活をすれば、自ずと思い出すのではないでしょうか?」
腕を組んで考える秀吉さんに、三成がすぐにもっともらしい案を出す。
「なるほど。三成の言うことは一理ある。だが、真逆の生活をするというのも、刺激になって思い出すかもしれんぞ?」
光秀さんの言い方は、完全に楽しんでるな……
「では、光秀と三成の意見を両方取り入れて、家康の記憶を思い出すよう接していこうではないか。」
信長様が脇息に凭れて、にやりと笑う。
その笑みが……とてつもなく嫌な予感を感じさせた。