第97章 恋した記憶、愛した事実《18》家康side
部屋を出て軍議のため、家臣と廊下を歩いていると、ふと先ほどのことを思い出す。
―――
『………そういう顔……』
『…え……』
『あんたのそういう顔見てると……俺は…』
―――
「(……あのとき俺は何て……)」
あの女の頬に触れた手を、そっと胸元まであげて、掌をじっと見る。
そして、あの女の顔を思い出す。
かなり不安気で、辛そうで哀しそうな顔。
あぁいう顔を見ているのが辛くて、無意識に頬に触れていたけど………
「(……俺は何て言おうとしたんだ……)」
じっと見ていた掌を、ゆっくりと握りしめる。
すると
「よぉ。家康。完全に包帯取れたんだな。」
廊下の角を曲がったところで、政宗さんと偶然会った。
握りしめていた手を開いて、腕を降ろす。
「……えぇ。お陰さまで。いろいろとお世話になりました。」
「あれぐらい気にするな。まっ、家康の怪我が治ったことだし、近々快気祝いがあるだろうな。腕がなるぜ。」
「……はぁ…別にそんなのいいんですけど……」
政宗さんの料理は美味しいけど、宴とかそういうのは面倒だから、出来るなら遠慮したい。