第96章 恋した記憶、愛した事実《17》
「……俺の時間があるときにね…」
……え…………
まさか、そう言ってくれると思わなくて、パッと顔をあげる。
「…ほ、本当……ですか…?」
「こんなことで嘘ついてどうすんの。だけど時間があるときだけだから。」
「は、はい!ありがとうございます!」
いつかはわからないけど、家康にまた会えることができると思うと、嬉しくて思わず笑みが零れる。
「……っ………じゃあ、俺はこれで……」
それだけ言ったら、家康は素早く襖を開けると、すぐに部屋を出ていった。
家康が出ていったあと、受け取った書物を一旦机に置き、懐から山吹色の御守りを取り出し
「……話していたら…思い出す……よね……」
御守りに祈るようにお願いした。
家康に会えるのは嬉しい。だけど、会うたびに不安はつきまとう。
今日は思い出すかな……?
明日かな…?明後日かな…?
日が延びるにつれて、もう思い出してくれないのかな……
と、不安になる。
「(………っ…大丈夫……家康はちゃんと思い出してくれる。)」
頭を左右に振って、不安を追い払い、御守りにお願いをする。
そして懐に入れたら、書物を持って書庫に直しに向かった。