第96章 恋した記憶、愛した事実《17》
「……あんたも手当てから解放されて良かったんじゃない」
「え?」
「これからは自分のことに時間使えるでしょ。」
そう言いながら、家康は書庫から借りていた数冊の書物の整理をする。
「(……そうだよね。怪我が治ったら、家康には……)」
家康の怪我が治ったのは素直に嬉しい。
だけど怪我が治れば、こうして手当てを口実に、家康に会うことも出来ない。
「(……これからどうしよう………)」
本来なら、もう間もなく祝言を挙げる予定だったけど、家康の記憶が戻ってないから、もちろん祝言は挙げれない。
家康は自分の御殿に戻るから、そんなに頻繁に会えなくなるし……私は……
家康の御殿に戻れない……
「(なんて……家康の御殿に行く前の生活に戻るだけだし……)」
世話役のお仕事して、たまにお料理をしたり、お姉ちゃんに会いに行ったり、城下にお使いしに行って、信長様たちと他愛もない話をして……
そうやって過ごしていた日々に戻るだけ。
だけど……
「(……戻れる…のかな………)」
どうしようもなく不安になる。