第96章 恋した記憶、愛した事実《17》
「…家康、さん……失礼します」
「……どうぞ」
「さん付け」で呼ぶのは、やっぱり慣れず、一人で部屋に入るのも緊張する。家康の返事を聞いて、静かに襖を開ける。
「おはようございます。怪我の具合はどうですか?」
「……別に。どこも痛みはない」
「そうですか……。あ、包帯外しますね」
頭に巻かれている包帯を外して、怪我の状態を診る。
頭のコブも小さくなってるし、切り傷もかさぶたになっている。
もともと深い傷ではないから、勢いよく振ったりしない限り大丈夫そう。
「もう大丈夫みたいですね。」
「だろうね。ずっと安静にしてたし、怪我が多いだけで、どれも酷い怪我じゃなかったし。自分の身体のことは自分が一番わかる」
「そ、そう…ですか……」
確かに二日ぐらいは、部屋に籠っていたけど、身体が動けないぐらいの怪我じゃないから、その翌日からは軍議にも出席していた。だけど、打撲傷が治るまでは鍛練だけは控えていたみたい。
けど、その鍛練も昨日から再開していた。
「……でも、良くなってよかったです。安心しました。」
心から思ったことを、そのまま言う。