第95章 恋した記憶、愛した事実《16》家康side
「っ…そ、それは………」
俺の質問に一瞬息を飲み、口をギュッと結ぶように閉じて、顔を俯かせる。
……ズキっ………
こういう辛そうな顔を見ると、頭が痛くなる…
なんで、こういう表情のときに痛みが………
「………言えないならいい。手当てが終わったなら出ていって」
女も話そうとしないし、この頭の痛みを消すために、女を部屋から出ていくように言う。
書物に目を向け、文字に目を通そうとしたとき………
「…………私は……」
小さい声で、話そうとしたのが聞こえ、書物から女に目を向けると
「……私は…家康、さんが……心配だから来ているのと……私のことを思い出してほしいから、来ています……忘れられたままは辛いから……」
「……それだけの理由…?」
「……私にとっては、充分すぎる理由です…」
弱々しく話しながらも、女の想いは伝わってきた。
「………そう…」
だから、たったのこれだけだけど、返事をした。
「………手当ても終わったので、失礼します。また明日の朝、手当てをしに来ますね……」
そう言って頭を下げて、部屋から出ていった。
「……忘れられたままは辛い…か……」
だけど……
「……何も思い出せないのも………しんどいけどね……」
静かな部屋で、自分が呟いた言葉が、やけに強く部屋に響いた気がした。