第95章 恋した記憶、愛した事実《16》家康side
夕方
安土城の書庫に向かい、医学に関する書物を棚から取り出し、手にとってパラパラと捲り、自分が望んでいる内容のものかどうかを確認する。
何冊か内容を確認し、その中の数冊だけ選んで、残りは棚に戻して、書庫から出る。
「(案外、記憶に関する書物がないんだな……。まぁ、俺も初めてのことだし仕方ないけど……)」
自分の記憶がないことに、戸惑いがあり、書庫に何かあるかと思って行ってみたが、目ぼしいものは何もなかった。
とりあえず、医学書数冊だけを選んで、少しでも書いているかもしれないと期待して、今から部屋に戻って熟読するつもりでいる。
「(にしても、三成の奴……取り寄せていた医学書を持ってきたのはいいけど、あとの書物は余計だし……)」
御伽草子やら何やら……大量に持ってきていたが、別にこれぐらいの怪我なら、あと数日で治る。
現に、軽い怪我の擦り傷なんかは大半が治っているし……
「(……数日………その間に、あの陽菜って女のこと、聞いとかないとな)」
怪我が治るまでの間、安土城に居とけと信長様に言われ、そのまま居ているが、治れば御殿に戻る。
御殿に戻ったら、そんな頻繁に会わないだろう。だからその間に、本人と話す必要がある。
「(……全然気が進まないけど…誰も言わないなら仕方ないし……)」
はぁー…とため息を吐いて、廊下の角を曲がると………
「(……何、あれ…)」
「………家康、さん……居ませんか~……?」
俺の部屋の襖にぴとっと、耳をくっつけて声をかけてる陽菜