第93章 恋した記憶、愛した事実《14》家康side
「…そういえば、三成と陽菜……遅いな…。」
女中を部屋に通して、新しい褥を敷いてる間、ふと秀吉さんが思い出したように呟く。
「三成様と陽菜様でしたら、先ほど向こうの廊下で、お見かけいたしましたよ。お二人とも、家康様の怪我が早く治ってほしい。とお話していて、陽菜様は、早く家康様とたくさんお話がしたい。とおっしゃっていましたよ。」
「…え……?」
手際よく褥を敷きながら、秀吉さんの呟きに女中が応えるが、その言葉に俺は少し戸惑う。
「…そうか。なら、早く治さないとな。家康」
「え?……あ、そうですね……」
秀吉さんの切な気な言い方に、俺の語尾も小さくなっていき、顔を俯かせる。
褥を敷き終わると、女中は部屋から出ていった。
「(……俺と話したい……?)」
それはどういう理由で話したいのだろうか……
俺みたいに、情報を得るため?それなら、今一緒にいる三成に探りながらでも聞けばいい。
でも、最初にあの女と会ったとき、あの女は俺のことを知っている様子だった……
だが、それよりも………
「(……なんでこんなに、胸がざわめくんだ…?)」
嫌な予感がする胸騒ぎではなくて、嫌ではなく、なんていうか……昨日のあの女の微笑みをみたときと似ている……
「……家康」
胸のざわめきが何かを、自身でいろいろ考えていたら、秀吉さんから声をかけられ、顔をあげる。
「お前と陽菜を関わらせようとする理由は、今は言えないが、しっかり陽菜と向き合って、陽菜のことを知っていけ。」
頼れる兄貴分の顔で、秀吉さんは優しく、だけど重みのある言い方で告げた。
「……わかりました。」
秀吉さんの言葉を受け止め、俺は返事をした。
ほんのしばらくすると………
「失礼します。」
三成の声が、襖の向こうから聞こえた。