第93章 恋した記憶、愛した事実《14》家康side
俺が着替えている間に、秀吉さんは褥を部屋から出し、畳を拭いている。水が溢れたといっても、大半は褥の上に溢れたため、畳はそこまで濡れていない。
だから、片付けもすぐ終わる。
そして俺も、着替えるだけだから、そんなものは、すぐに終わった。
「(ちょうどいい機会だし、秀吉さんに聞くか……)」
なかなか、陽菜という女のことが聞けずにいた二日間。
目覚めた当日は、身体が痛むのもあり、早々に休んで誰にも聞けず……。
昨日は手当てが終わったあとに、聞こうと思っていたが、俺の食事が終わると、秀吉さんと政宗さんは話もそこそこに退室していったから、結局聞けなかった。
「……秀吉さん…」
「ん?なんだ?」
人の良さそうな笑みを浮かべて、秀吉さんは俺の方へ向く。
「…あの陽菜って女のことですけど……なんでもいいんで教えてください。」
「…………」
俺の言葉に、先ほど浮かべた人の良い笑みは消え、今は真剣な表情の秀吉さん。
「あの女もそうですけど、なんであんた達は、あの女と俺を関わらせようとするんですか?」
昨日、必死になって俺の手当てをさせてくれ。と懇願してきた、陽菜という女。
信長様の命だけど、信長様に言われたから来たわけではない。と言っていた。
手当ての腕前がいいのは見ていてわかったが、それ以外は、何もわからない。
それに、昨日秀吉さんは、何かを言おうとして、政宗さんに遮られた。
期待を込めるように、秀吉さんをじっと見る。
はぁ……と秀吉さんは息を吐くと、口を開いて
「陽菜は大事な妹だからな。」
こう答えた。