第93章 恋した記憶、愛した事実《14》家康side
文の返事を書き終わり筆を置いて、墨が乾くまでの間、手当てをしようと、褥の横に置いてある自分の薬箱をとろうと褥まで移動し、座って薬箱の蓋を開けようとしたとき
「家康、入るぞーーー!」
秀吉さんの声が聞こえ、返事をする前に開く襖。
開くと同時に部屋に入ってきた、秀吉さん、陽菜という女、そして…………
「家康様!お怪我の具合はいかがですか?何か私に出来ることがありましたら、なんなりとお申し付けください!」
なぜか、やる気に満ち溢れている三成。
三成の姿を見て、一気に顔をしかめる。
「……あるよ…お前にしか出来ない重要なこと……」
「っ!!はいっ!一体何でしょうか!!」
俺の次の言葉に期待しているのか、目を輝かせる三成。
その行動も、俺を苛つかせるものだとは、こいつは一切気づいていないだろう…。
「今すぐこの部屋から出ていけ」
「こら!家康!仲良くしなさい。と、いつも言っているだろ!」
すかさず、秀吉さんのお小言が飛んでくる。
ことあるごとに、三成と仲良くしろ。と言ってくるが、それは絶対に無理な話だ。
「家康様!出ていってしまっては、家康様のお役にたてません。この三成、怪我の手当てでも何でも致します!まずは手を清めて……!」
バシャバシャと、勢いよく音をたてて、清め水で手を洗う三成。
当たり前だが、そんなに勢いよく洗えば、水が飛び散る……案の定……
「三成くん!!水が飛び散ってる!!手当ては私がするからっ……!」
水が俺の方へ飛び散ってきて、褥が濡れ始める。
そして、この三成の馬鹿の行動を、慌てて陽菜が止めようとするが………
「おや?おかしいですね。何故こんなに褥が水浸しに?今すぐ拭きま…あ。」
ガンっ!!
バシャーー…………
「(…………最悪…)」
桶の近くにあった手拭いを取ろうとした瞬間、三成の腕が桶に当たり、桶を倒して褥が水浸しに……
しかも濡れたのは褥だけでなく夜着まで濡れている。
俺の夜着が濡れたのに気づいた三成。なぜか着替えを手伝おうと、俺の方へ手が伸びてくるのを、俺は悪態をつきながら避ける。
みかねた秀吉さんが、はぁ……と一つため息を吐いて、それぞれに指示を出すと、陽菜と三成は部屋を出て、秀吉さんは片付けに、俺は着替えはじめた。