第93章 恋した記憶、愛した事実《14》家康side
朝、起きて、家臣達が届けに来た文に目を通す。
怪我をしているとはいえ、そこまで重症でもないため、普段通り政務を行う。
「(……でも、まだ鍛練は厳しそうだな…)」
軽い擦り傷などはもう治ってきているが、打撲傷と背中の打ち身は、痛みの感覚的にもう少しかかりそうだ。鍛練をして、怪我の治りが遅くなっても困るため、今は怪我を治すことに専念している。
「(……信長様にも言われたしな……鍛練でもして治りが遅くなったら、なんて言われるか……)」
「阿呆」や「愚か者」なんて言葉じゃなくて、ひと言で地の底まで叩きのめされる言葉を言われるだろう……。思わず言われたときのことを想像してしまい、一気に眉間に皺が寄ったのが自分でもわかり、はぁ……と深く息を吐く。
文の返事を書こうと、机に向い筆をとろうとすると
「……あ…」
腕の包帯が緩んでいるのが、目についた。
「(……結構強めに結んだんだけど……甘かったか…?)」
筆をとる前に袖を捲し上げ、緩んだ包帯を一度外して、片手と口で巻き直す。
「……そういえば…」
そっと、頭の包帯に手を触れる。
寝返りをうってる筈なのに、全然緩んでいない。
「(……これは想像以上だな……)」
昨日手当てをした、陽菜という女の腕前と手際の良さに脱帽する。
そして
『……ありがとう…ございます。』
手当てが終わって、最後に小さく微笑んだ姿を思いだし、また胸が一瞬跳ねる。
だが、なぜこうなるのかがわからず、一つ息を吐くと、筆をとって文を書きはじめた。