第92章 恋した記憶、愛した事実《13》
女中さんに、新しい褥を用意してもらうようにお願いして、新たに手を清める水を汲んで、家康の部屋へと三成くんと一緒に向かっていると
「あ、政宗」
「政宗様、おはようございます。」
「ん?三成に陽菜。何してんだ?」
お重を持った政宗と廊下で鉢合わせた。
「ちょっといろいろあって、水を汲みに……政宗は?」
「俺は家康と三成と陽菜に差し入れだ。三成が飯食ってないって秀吉に言われて作ってたら……陽菜、お前も朝飯食ってないんだってな。女中が心配してたぞ。」
「あ、起きてすぐに家康の部屋に向かったから……食べるの忘れてて…」
「そういえば、私も食べていませんでした。政宗様、ありがとうございます。」
「ったく……。三成は毎度のことだが……陽菜は手当てする側だろ。手当てする奴が倒れたら意味ねーから、手当て終わったら家康たちと一緒に食え。」
「え……一緒に……?」
三成くんも言ってくれたように、手当ては今日も、たぶんさせてもらえるとは思うけど……一緒に食事はどうなんだろう……
「(……ものすごく嫌な顔されそうな気が……)」
その状景が瞬時に思い浮かんで、顔を俯かせる。さっき三成くんに励ましてもらって、自分らしく家康に接する。って決めたのに、早くもその決意が萎んでいく。
すると
コツン……
政宗に額を軽く小突かれて、パッと顔をあげると
「そんな顔すんな。何か言われたら、俺が言い返してやるよ。」
ニカッと笑った政宗。
「……うん。ありがとう……」
その笑顔に励まされ、私たちは家康の部屋に向かった。