第92章 恋した記憶、愛した事実《13》
「確かに家康様は、陽菜様のことを忘れてしまっていますが、記憶が無くなっても、家康様自身の性格や本質的なところは何も変わっていません。」
「本質的なところ……?」
「はい。家康様の優しさ、厳しさ、武将としての野望などです。先ほどの陽菜様のお話。陽菜様の手当ての腕前を認められたから、今日も部屋に通したのだと思います。家康様はとても厳しい方ですから、もし認めていなければ、陽菜様を見られた時に、入室を断るはずですから。」
「……三成くん…」
「陽菜様が抱えている不安は、私なんかが思っている以上のものだと思います。ですが、家康様の人柄は変わっていませんから、今までと変わらず家康様と接していれば、陽菜様のことを思い出すのではないでしょうか。」
嫌な顔をせずに、私の話を真剣に聞いてくれて、真剣に答えてくれた三成くん。
相手のことをよく見ている三成くんだからこそ言える言葉は、私の胸にストンと入ってきた。
「(そうだ……昨日家康の優しさを目の当たりにしたはず……)」
落ち込んでいると思って、頭の手当てをさせてもらったこと。あのとき、家康の優しさが見えて、嬉しかった。
「…なんて……私としたことが…しっかり確信を持って言えずにすみません……」
最後に申し訳なさそうに、弱々しく笑った三成くんに、慌てて首を左右に振る。
「ううん!!三成くん、ありがとう!!そうだね。私らしく、家康と接するよ。」
「……陽菜様……はい。私も、家康様の記憶が戻るよう、ご協力致します。」
そう言って優しく微笑んでくれた三成くんに、私も微笑む。
三成くんのおかげで、久しぶりに心から微笑むことができた。