第92章 恋した記憶、愛した事実《13》
お姉ちゃんが仕立ててくれた小袖に着替え、帯を締めると、巾着を手に取って、また鏡台の前に座る。
櫛で髪の毛をとき、とき終わると櫛を鏡台の上に置いて、巾着のなかにしまっていたものを二つ取り出す。
一つは、家康に初めて貰った髪飾り。
薄黄色の大ぶりの花の周りに、山吹色の小花が三つ付いているもの。
それを、左耳の少し上に付ける。
家康と想いが通じあって、家康がつけてくれた場所。
―――
「ど、どうかな……?」
「…よく似合ってる……」
―――
緊張しながら家康に聞いたら、家康は、目元を赤くして、私から目線を少し外して言ってくれた。
「(……すごい嬉しかったな……)」
そのときのことを思い出して、ふふ…と思わず笑い声が口からこぼれる。
そのまま鏡を見て、鏡の自分と見つめあい、もう一度微笑んでみる。
「……うん。さっきよりマシかも…」
まだまだ本調子じゃないけど、さっきみたいな違和感のあるものとは違う。
小袖と髪飾りのおかげで、少しだけ気持ちが晴れたみたい。
そして、髪飾りと一緒に取り出した、もう一つのもの『山吹色の御守り』
家康に作ったものだが、汚してしまい渡せなくなったもの。その御守りを手に取り、両手でギュッと握って、顔の前まで近づける。
「(……思い出してくれますように…)」
強く強く御守りにお願いをする。
こういうことは、お願いするようなことではないかもしれない。
でも、少しでも可能性をあげるために、御守りにお願いをした。
「………よしっ!頑張ろう!!」
御守りを懐に入れて、気合を入れて立ちあがり、襖に手をかけた。