第91章 恋した記憶、愛した事実《12》家康side
女が部屋から出て、静かに閉められた襖を、ジッと見る。
「(………今のは……一体……)」
小さく微笑んだ表情……。
あれを見たとき、心臓が拍動した……。
「(……その直前に、傷ついた表情してたから……微笑んだ姿を見て、ちょっと驚いただけだろ……)」
そう思っていると
「家康、入るぞー。」
秀吉さんが声をかけて、襖を開けて、政宗さんと共に部屋に入ってくる。
「陽菜は、どうだった?」
部屋に入るなり、開口一番は、あの女のこと。
「……まぁ、手当ての腕前が良いのはわかりました。」
「………それだけか?他に何か話してないのか?」
さっきまで居た女が座っていたところに、秀吉さんは座り、俺の返事に目を見開く。
「何を話すんですか。話すことなんてないですよ。」
そう返事をすると、秀吉さんがはぁー……と重いため息を吐く。
「…あのなぁ……。お前が陽菜のこと、何も覚えてないから、思い出させるきっかけに、二人にさせたんだろうが。」
「まぁ、秀吉、落ち着け。家康の性格考えたら、自分から何か聞くような奴じゃねーだろ。」
「それもそうだが、陽菜は……」
「ほら。家康、これ食って、早く怪我治せ」
「………どうも…」
秀吉さんの隣に座った政宗さん。箸とお重を俺に渡してきて、秀吉さんの言葉を珍しく遮った。
「(そういえば政宗さん。あの女を、俺の女にするとか言ってたな……)」
お重に入ったおかずを口に入れながら、昨日のやり取りを思い出す。
「(あの政宗さんが、女を追いかけるとか、想像できない。)」
自由気ままに行動する快楽主義の政宗さん。一人の女に執着したことは、今までには無かったと思う。
「(……まぁ、俺には関係ないことだ……)」
そう思うのだが、頭のなかでさっきの女の表情がちらついて、妙に胸がざわついた……