第91章 恋した記憶、愛した事実《12》家康side
「え……?」
女の驚いた声を聞きながら、俺は包帯を外していく。
「包帯とかは巻けても、怪我がどういう状態なのかは見えないから。その代わり、頭が終わったらすぐに出ていって。」
「っ……は、はいっ!!」
言い方がどことなく言い訳っぽくなったが、もう言ってしまったから、あとには引けない。
俺が包帯を外すのを見て、動きの止まっていた手を、動かしはじめるのが見えた。
そして、さっきみたいに薬を持って、俺の背後に回り、同じように優しい手つきで薬を塗り、きつくないように、包帯を巻いていく。
「(……あの顔は…見たくない……)」
この女の傷ついた表情だけは、なぜかどうしても見たくなかった……
「……終わりました…」
「…あぁ……。どうも。」
手当てが終わり、一応礼を言う。
俺が、手当てが終われば、すぐに退室しろ。と言ったから、急いで片付けをしている。
結局、本当に必要最低限の会話しかしていないから、女のことは何もわからなかった。
「(まぁ……手当ての腕前がいいことはわかったな。)」
この短時間だけど、準備からの一連の動きを見ていて、無駄な動きがほぼなかった。
「…案外……手際…いいんだね……」
思ったことを、小声で言ったら、片付けしていた手が止った。
「(聞こえてたか………)」
きょとんとした顔で、俺を見てくる。
「……何。終わったなら出ていって……」
「あ!……はい……」
何も言っていない風を装おって、意識を片付けに向けさす。
すぐに片付けをはじめ、あとは蓋を閉じるだけのところで、動きを止めて……
「……ありがとう…ございます。」
かなり小さな声で、なぜかお礼を言われ、女を見ると
………ドク………
小さく微笑んでいるその表情に、心臓が少しだけ大きく拍動した……。
パタン……
「……失礼しました。」
薬箱の蓋を閉めて、頭を下げて、静かに部屋を出ていった。