第91章 恋した記憶、愛した事実《12》家康side
女が薬箱を持って、いそいそと俺の褥に近づいてきたとき
「なら、俺たち部屋から出とくから、終わったら声かけろよ。」
「え?」
「そうだな。手当ての邪魔しちゃ悪いしな。」
「え?秀吉さんも?」
秀吉さんは、女の頭を数回撫でると、政宗さんと一緒に部屋を出た。
二人にして、何かしらの話をしろ。ってことだろう。だけど、特に女と話すことなんてない。
とりあえず、怪しい行動をしないか見るために、女の手元を注意深く見る。
俺の褥の横に座って、怪我にあった薬、包帯などを取り出し、順番に置いていくのを見ていると
え……………?
「……なん、で……?」
左側に薬を置き、右側に包帯、手拭い、手を清める為の水が入った桶。
俺が手当てするときと、全く同じような配置で薬を置いていて、思わず目を見張る。
すると、手を清めていた女が顔をあげて、俺と目が合う。
「……っ…」
「……あ、の……何か…言い、ました……?」
「……………いや……何も……」
「…そう、ですか……」
フイっと女から顔を逸らす。
無意識に俺は言葉をこぼしていたみたいだ……。
「(……俺が教えてたみたいだから、こういうことも教えていたってことだろう……。)」
ごくごく自然に置いていたから驚いたけど、冷静に考えれば、別に驚くようなことでもない。
そう思いながら、女の方をちらりと見る。
清めた手を桶から出し、手拭いを取ろうとしていたのが見え、俺は手当てをしやすいようにと、夜着に手をかけた。